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Up or Outしかない -コンサルティングファームの裏側-

コンサルティングファームは、たしかにアップオアアウトですね。でも、世間で言われているように、成長しない人間のクビを切るというのとは、実情はかなり違うんですよ。

どちらかというと、自分で自分の実力を振り返って「どう考えても、来年は自分の年収の2-3倍は稼げないなあ」と自覚したら、自発的に退職するっていうほうが多いんです。

もちろん、自発的に退職を申し出なくて、会社から言われる人もいないわけではないですけど、圧倒的に自発的に申し出る人の方が多いです。

それは、自分が退職しなかったときに、何が起るかを、みんなが十分理解していて、そんなことを仲間に強要できない、という倫理観が働くからだと思います。

コンサルティングファームというのは、装置産業ではありません(注:当時はアウトソーシングビジネスはなかった)。完全な、労働集約産業です。つまり、プロジェクトにアサイン出来ない人がいるということは、その人の分を誰かが残業してまかなわなければいけない、ということです。

ただでさえ忙しく働いている同僚達に、自分がプロジェクトで役に立たないから、自分の給与や費用分を追加で働いて下さい、と平気で要求できるほど、チームスピリットに乏しい人間は、たぶん、最初から採用されていないと思います。(注:嘘です。そういう人は、実際にはたくさん採用されるので、仕方なく、会社が退職勧告をすることも多々あります。)

ですから「今年、年収の2-3倍を稼げたか」「来年は年収の2-3倍を稼げるか」ということをじっくり考え、無理だと判断した時点で退職をしていく、ということになります。

例えば、年収800万円の人が1年間まったくプロジェクトにアサインできなかったとします。この人が稼ぐ義務がある金額は、通常は2000万円~3000万円です。この金額を、他のチームメンバーで頭割りをしたとします。10人のチームなら、一人200万円分の残業です。だいたい、年で60時間程度です。この程度なら、まだ追加で残業してもいいかな、と思うかもしれません。

しかし、実際には新人を採用すると、最初の半年はプロジェクトアサインは無理ですから、新人の分も追加で働いているわけです。また、10人のチームで、プロジェクトアサインが無理、と言う人が1人ということはあまりなく、通常は、2-3人づつアサインできなくなっていきます。

そうすると、計算上、自分の標準労働時間の、約1.3倍を働かなければいけなくなるというわけです。

私自身、自分が被害者になるまで、アップオアアウトに反対でした。しかし、自分が被害者となって、異常なまでの超過勤務を科せられるようになって、心底実感したのは、アップオアアウトを採用しないのであれば、経営陣には3つしか選択肢がない、ということでした。

その1つが、コンサルティングビジネスに特化することをやめて、装置産業的な要素を取り入れること。そうすることで、純粋な労働集約産業とは異なり、プロジェクトアサインができない人をグループメンバーだけではなく、装置の稼働効率で調整することが可能になります。しかし、これは組織の戦略、ビジネス設計の根幹に関わる問題です。

ですから、中長期的にこの戦略を採用するコンサルティングファームもあるでしょうけれど、すくなくとも即私が採用できるものではありません。(注:この記事から10年、本当に装置産業を取り入れるコンサルティングファームが多数出てきたので驚いています。)

2つめの選択肢が、チームメンバーに対して「○○さんのクビを切りたくないから、悪いけど、追加で残業してくれない?」と頼み続けるという方法。多くの一般事業会社で採用している方法です。しかし、事業会社と異なり完全な労働集約産業であるプロフェッショナルサービスファーム(コンサルティングや会計・弁護士事務所など)では、誰にために自分が何時間追加で働くのかということが、数値としてダイレクトに理解できます。ですから、○○さんがよほど性格が優れていて「この人のためなら、一肌脱ごう!」と思わせる人でない限り、上手くいくものではありません。

○○さんが、完全な新人であれば、半年程度はみんなこういう思いでフォローしてくれます。でも、新人でない限り、「なんであいつのために自分が、そんなに働かなきゃいけないんだ?」と、いう強烈に強いプレッシャーと会社に対する不信感を醸成することになります。

そして3つめが、チームメンバーを働かせない代わりに、アサインできないプロジェクトメンバーの分を全て管理職が追って超超過勤務を受け入れる、ということです。まあ、これを受け入れる管理職はあまりいませんが、当社でも数人はいます。でも、疲れ果てて、管理職自身が1-2年で退職してしまうようです。

当社も20人から50人に増えた時、会社の中がぶら下がりが起き始めたんですよ。ベンチャー的な要素がなくなってきて、自分が稼がなくても、人の稼ぎにぶらさがろう、というスタンスの人が増えてきました。そして、明らかにアサインメントされる可能性もないのに、自主的に退職もしない、という人が出てきました。

会社はこの時点で上述した3つの選択肢がありました。ぶらさがっている人たちに対して退職勧告をするか、放置して他のメンバーに超過勤務をさせるか、新らしいビジネス構造を取り入れるか、です。

そして、Aさん(人材コンサルタント)はご存じのとおり、私たちは間違えを犯しました、マネジャーとスタッフに追加残業をさせてるという選択したんです。

その結果、私を含め、稼ぎ頭のマネジャーとコンサルタント15人が一気に退職し、会社は立ちゆかなくなりました。

あれから数年たって「二度と同様のことを起こさないから会社に戻ってきてほしい」と言われて戻ったわけです。しかし、他のメンバーは戻ってきませんでした。こうした経緯があるため、私は、コンサルティングビジネスというだけではなく、当社の人事業務も兼任して、どうすれば、同様のことを再発させず、可能な限り、労働集約的な要素を軽減できるか、ということを考えるというお仕事をいただいているわけです。

でも、正直なところ、やはり何らかの装置産業を取り入れない限り、労働集約産業でアップオアアウトを採用しない、という経営は成り立たないのではないかと考えています。

もちろん、数ヶ月、数年であれば超過勤務でフォローをすることも可能かもしれません。

でも、自分のせいで同僚が異常な働き方をしているということを横目で見ながら退職せずに平気でいられる人がすぐ横にいて、会社に対して不信感を覚えない社員がいるとは考えにくいんですよ。

実は日本は、一度採用をした人を退職にすることがとても難しい国なんです。日本でも、戦略系のコンサルティングワームでは、入社時に誓約書を書かせるなどの工夫をして、プロジェクトアサインができなくなった時点で退職勧告をしているところもたくさんあります。また、法律上は、仕事をアサインできない人に退職勧告をすることは、本当はできるんです。ただ、慣習的に難しいため、アップオアアウトを採用しないでいこう、と考える新興コンサルティングファームが多いようです。

私が見ている限り、アップオアアウトポリシーを採用しない新興コンサルティングファームは、創業2-3年で失速しているようです。おそらくこれは、私たちが犯したのと同様の過ちをしているためでしょうね。

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この対談から、10年が経ちました。

10年間、意見が全く変わっていない自分に驚くべきなのか、それとも10年間学習をしていない新興コンサルティングファームにあきれるべきなのか・・・・・。どちらでしょうね?

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