« Up or Outしかない -コンサルティングファームの裏側- | トップページ | 目標ベース経営と価値ベース経営 »

良い退職 悪い退職

私は今までに数回の転職をしています。この転職の中には、良い退職理由と悪い退職理由があったと考えています。

私は、会社にとっても本人にとってもWin-Winの退職時期・退職理由というものがあると考えています。

退職の時期としては、入社から退職までの期間に会社が支払ったコスト(給与、育成コスト、福利厚生費)に見合った金額の売り上げを上回る売り上げまたは何らかの成果を会社に還元した時期より後です。コンサルティングファームの場合、通常は給与の2-3倍の金額がコスト相応額ですから、入社から退職までの期間の2.5倍程度の金額を売り上げていれば、会社に対する義務は果たしていると言えます。多くのコンサルティングファームの場合、入社3年目がそれに相当します。

4年目以降も同様の売り上げを上げ続けられる人が退職するとなると、会社にとってはWinではなくLoseです。しかし、現実には約3-4割のコンサルタントが、3年間でコスト相応を売り上げることはできても、4年目以降もコスト相応額を売り上げることはできません。それは、コンサルティングファームで3年間成果を上げれば、職位があがることになり、職位があがれば給与が連動するため、稼ぐ義務がある金額が桁違いに増えるからです。

そのため、コンサルティングファームの平均勤続は3年程度です。

また、コンサルティングファームの場合は、3年もすればビジネス環境が異なってくるためプロジェクトで求められる専門知識が異なってきます。コアとなる論理力やファシリテーション能力はといったスキルベースは変わりませんが、知識・技術は異なるため、必要とされる勉強を常に続けていない限り、4年目の売上げ予測が0円です、というコンサルタントも少なくありません。

その場合、この記事で書いたように「同僚に迷惑をかけたくない」という倫理観が働くコンサルタントは、自分が必要コストを稼ぐことが出来なくなった段階で転職をしていきます。

コンサルティングファームで稼げなくなったからといって、別の会社でも稼げないわけではありません。

こういう時期の転職は、本人にとっても自尊心を失わずにすみますし、新しい環境にチャレンジをする機会になります。同時に、会社としては必要なだけ稼いでくれて、ぶらさがりになる前に転職してくれるわけで、諸手を挙げて賛成すべき退職だと考えています。

引き留めるどころか、感謝を伝えるべき退職時期ではないでしょうか。

また、「転職をすることで、現在の勤務先では行うことが出来ない仕事の内容や責任範囲の仕事を行うことができるようになる」場合、本人にとっては望ましい理由なので、引き留めるべきではないと考えています。

できれば同じ会社で同様のチャレンジをできればうれしいですが、コンサルティングファームというのは、通常は単一ビジネスです。ですから、異なる業種のチャレンジを行うことは困難です。

また、ビジネスの種類というだけではなく、組織戦略という点でも本人の希望と会社の希望が異なっている場合には、快く送り出すべきだと感じています。それは、重視する価値観が異なる場合、常時一緒に働くことは困難であっても、少し距離が離れたアライアンス先としては提携することが十分に可能だからです。

こうした場合、近い将来、クライアント-コンサルタント、またはアライアンス先という新しい関係として、一緒に働くことが出来る日が来ることを期待して、快く送り出すべきだと考えています。

コンサルティングファームにおける転職は、会社に対する裏切りでもなければ、仲間を見捨てる行為でもありません。

新しい関係を作るきっかけだと信じています。

しかし、新しい関係として関係を継続しつづけるためには、退職理由が何であるのかが重要だと思います。

コンサルタントが退職をする理由は以下の大別できます。

  1. 今までのコストは回収したが、今後要求される売上げを達成することができない
  2. 新しいチャレンジをしたい(希望する仕事内容と違う、を含む)
  3. 会社のビジョン・戦略と、自分が考える組織像が違った
  4. 仕事は楽しいが家庭や健康などの理由で現在の就労条件を満足させられない
  5. 同僚・上司・クライアントなどと人間関係が悪化した
  6. 今までのコストも回収していないが、今後要求される売上げも達成できない

私は1~3の理由による退職は、会社は強くリテンションをしてはいけないと考えています。強いリテンションを行わず、快く送り出すことで、新しい関係を構築できるからです。これらを「良い退職理由」と考えています。

「良い」というのは全人生という長いスパンで考えたときに「良い人間関係を維持しつづけられる退職理由」という意味です。

4のように家族の介護や育児といった「世間的にはいたしかたがない理由」と言われるものは、私は「悪い退職理由」だと考えています。それは、会社が多様な価値観を受け入れ、多様な働き方を提供する限り、これが退職理由とはならないからです。会社側は関係を維持したいと考えるかもしれませんが、退職した側からすると、関係を維持したいとは考えにくいでしょう。

また、5の場合も同様で、これは会社側も本人側も関係を維持したいとは考えにくいですから、悪い退職理由です。

そして、最後の6。これは、入社して数ヶ月以内で本人が自主退職すれば、良い退職にできます。しかし、周囲に負荷を与え始めてから退職した場合は、本人が関係を維持したいと希望しても、会社側が関係を維持したいと希望しません。ですから、時期によっては悪い退職理由になります。自分はどうやらこの先もずっとコストを回収できる見込みがない、と思われるのであれば、一刻も早く退職をすれば、良い関係を維持することができると思います。

こうした考え方は、コンサルティングファームで勤務をしていれば、あまり違和感がないのですが、それ以外の方には奇異に映るようです。

多くのコンサルティングファームの場合は転職をしても、Alumni(卒業生)と呼ばれる組織があり、最低年に1回集まって情報交換をするといった活動を積極的に行っています。

私も、つい先日このAlumniパーティに参加してきました。参加者の半分以上が既にそのファームの社員ではなく、さまざまなところで活躍しています。

転職や退職は、裏切り行為ではないのです。退職したからといって、関係を断ち切る必要もないですし、今後一緒に何かを作り出すチャンスがなくなるわけでもありません。

私自身、自分が転職をする際には、出来る限り良い理由で退職をしようとしてきました(実際には、家族の介護という理由で転職していますが・・・)。そのことが、前職とも良い関係を維持しつづけることができている理由だと考えています。

多くの事業会社では、転職していく人を「裏切り者」という目で見ます。中には、社員の退職率が人事や社長の評価指標となっているという、ただそれだけの理由でリテンションをかける会社まであります(前職で、人事コンサルティングをしていたので、そういう会社さんを多数見ました・・・・)。

しかし、職業人生で1社だけに所属をする人の割合は、どんどん減っていくことでしょう。会社も変わるし、人も変わります。1つの組織の中で良い関係を維持していくことは、どんどん難しくなっていくでしょう。

私はこれからも、良い退職理由を「良い」と考えられる人と、長期間の関係を継続していきたいと思います。

上司-部下、同僚という関係ではなくなっても、いつまでも末永くつきあっていきたいと、心から祈っています。

しかし、良い退職理由を「良い」と考えられるかどうか。それは、退職していく本人だけではなく、会社のトップマネジメントの意識や、退職していく社員の仲間達の意識に大きく依存します。

ですから、退職していく本人だけではなく、その仲間達にお願いします。

人間関係を、短期的にとらえないで下さい。長期的に良い関係を維持することができるように、キャリアプランを考えて下さい。

そして、その選択肢の中に、転職ということがあるのであれば、是非転職してください。そして、転職をしても、Alumniとして、いつまでの良い関係を続けていけるように、誠心誠意の努力をして欲しいと思います。

また、こうした価値観で、今でも私をサポートしてくれている、前職の同僚達にも心から感謝を伝えたいと思います。日本語で書いても読めないけど(笑)

« Up or Outしかない -コンサルティングファームの裏側- | トップページ | 目標ベース経営と価値ベース経営 »

仕事に対する考え方」カテゴリの記事