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管理職に推薦すべきか・・・

カウンセリングの倫理規程に「二重関係・多重関係の回避」があります。特定の用語はありませんが、監査倫理規定にも同様の回避条項があります。

具体的には、家族のカウンセリングをする場合であっても家族という関係から離れて「カウンセラーとクライアントという関係」のみで接する義務を負うということです。家族をカウンセリングしてはいけない、ということではなくあくまでもカウンセラー側・クライアント側双方ともに「カウンセラー・クライアント」としての役割のみを担うことができればOKです。

が、はっきいり言ってこれってかなり難しいです。クライアントが自分にとって近く、大切な存在であれば通常は感情的になります。ですから、多くの場合は二重関係・多重関係を回避するために、既存の関係がある人をクライアントにはしないものです。

私はこの原則は、カウンセリングや監査という特殊な関係だけではなく、職場における人間関係にもあてはまると考えています。「友達」でありながら「上司と部下」という関係を維持することは、不可能ではないけれどもとても大変なことです。

たとえば私は、コンサルティングファームで管理職をしてます。営業責任があり、サービスデリバリーの責任があります。私にとってコンサルタントは、商品であり原材料です。商品には売りやすい商品もあれば売りにくい商品もあります。また、加工しやすい原材料もあれば加工しにくい原材料もあります。

私の職業上の義務は、商品を少しでも売りやすくすることと、原材料を加工しやすくすることです。また、付加価値をつけて少しでも高く売れるようにすることです。

ここに、個人的な好き嫌いや、個人的な人間関係がはさまると大変なことになります。「Aさんのことは友達として好きだし、とてもよい人なんだけど、だけどこういう課題があるから商品(コンサルタント)としては売りにくい」などと、苦悩しなければいけなくなります。

コンサルティングファームというのは、コンサルタントそのものが商品なわけですから、売り手(管理職)は常にこういう問題と向かい合う可能性があると思われがちです。

しかし、現実には、私の場合はこの問題で悩むことがありません。なぜかというと、多くの先輩社員が管理職になったとたんに態度が豹変する様子を新人の頃から見続けているので、自然と「原材料側の人と原材料管理者」としての役割の違いを理解していたからだと思います。(人派遣系のビジネスや、ホストクラブやキャバクラも同じでしょうね)。また、比較的若い時期にカウンセラーとしての訓練を受けたので、二重関係を維持する大変さや苦労を頭でも理解していたこともプラスに働いたと思います。

私にかぎらず、人を売る業界にいる多くの管理職にとっては、社員の各スキルを取り出して評価をすることと、個人的な好き嫌いには何の相関関係もありませんし、個人的に親しい親しくないといった関係が影響することはありません。実際問題として、先日プライベートで親しくしている人から「コンサルタントとして適正がないと思うんだけど、どう思う?」と聞かれたときに「うん、私があなたの上司だったら、今の上司と同じように平均以下の評価しかしないよ」とはっきりと答えました。その人は、コンサルタントを辞める決意をしたそうですが、辞めたあとも親しくつきあっていこうと思っています。一方、この人とは絶対にプライベートで会いたくもないな、と思う人であっても「コンサルタントとしては優秀」と素直に認めている人もいます。

ある程度の社会人経験をつんで中途でコンサルタントになった人や、中途でいきなりコンサルティングファームで管理職になってしまった人はこの二重関係でかなり苦しむようです。特に、長年なあなあともいえる人事考課を行ってきた多くの日本企業の出身者は、人間をいくつかのスキルやコンピテンシーで切り取って各スキル別に客観的に点数をつけていく、という作業に困惑するようです。点数をつける方も困惑しているし、点数をつけられる方も困惑している様子をよく目にします。特に大手日本企業の中には「目標考課シートというのは良いことだけを書いておいて、悪いことは本人に日常生活で口頭で指導するもの」という社風の会社が少なくありません。ですから、目標考課シートに文字としてマイナス点を記述したり、記述されたりすることに多大なショックを覚える人が多いようです。

しかし、コンサルティングファームにおけるコンサルタントは商品・原材料なわけですから、商品の売れ行きや売りやすさは客観的にカルテとしてデータ化する必要があります。良いことだけを申し送りしたり、適当にカルテを作っていては、翌年度の販売方針を立てることができません。ですから、良いこと悪いことが半々に書かれているのが一般的です。

こうして、商品を商品として取り扱うためには、私のように「商品としてのAさんと友人としてのAさんは別物」と何のわだかまりもなく割り切ることができるか、そうでなければ二重関係を回避するかのいずれかを選択する必要があります。コンサルティングファームで、リーダーとしては有能だったけれども管理職になったとたんにパフォーマンスが落ちる人の大半が、このどちらも選択することができない人です。リーダーとして機能していたということは専門家としては一人前であり、プロジェクトマネジメント能力も備えているということです。にもかかわらず管理職として機能しないのは、コンサルタントを商品として取り扱うことができないからです。

リーダーとして十分な経験を積み、そろそろ次のステップに昇格してもいいかな、という人がいたとします。当然のこととして、個人的に好きだから昇格ということはありえません。見極めるポイントは明確で「コンサルタントを商品として扱うことができるか」「コンサルタントの商品価値を上げることができているか」「販売することが難しい商品に過度に肩入れせずに損切りができるか」です。(とはいえ、管理職になったからといって「チームワークを重視してチームとして働くことができる」「気配りができる」という「コンサルタントにとって最も大切な基本条件」は変わりません。この点は誤解しないでください。)

リーダーとして有能であるということは基本的には人に気配りができる、人のことに興味を持っている人たちです。中には、プロフェッショナルサービスファームにおける管理職の役割をすんなりと受け入れることができる人もいれば、性格的にこの役割を受け入れがたい人もいます。そして、こういう性格的に受け入れがたい人は、「商品としてのAさんと友人としてのAさんは別物」と何のわだかまりもなく割り切ることが難しいため、多くの場合は「二重関係の回避」のために、部下となる人たちとの友情を犠牲にするという選択をします。それはそれで、本人が納得していれば良いのですが、人のことが好きで友人を作ることが趣味のような人にとっては、この選択もまた苦しいわけです。

そのうえで、苦しい思いをしている最中に部下から「え、いままであんなに仲が良かったのに何でこんな評価なの?」とか「嫌いだから低く評価したんだ」などと反発されたりすると、よけいに落ち込むわけです。特に中途でコンサルタントになったばかりの人には、自分が商品として取り扱われているということが理解できていない人がおおいので、こうした反応が珍しくありません。私が現在働いている組織のように、組織が急成長しているために部下の大半がコンサルタントになって間もないという状況だと、自分が商品であるということそのものを受け入れていないコンサルタントもパラパラというるので、こうした反応は全く珍しくありません。そして、落ち込んでいるところにこうした反応が来ると、この新人管理職さんはほぼ間違いなく撃沈します。

今までも多くの有能なリーダーが管理職なった途端にスタッフ職の反発を受けて、撃沈してコンサル業界を去っていくのを目にしました。だからこそ、管理職としての昇格を推薦するかどうかは、本当に真剣に考えます。

有能なリーダーが、リーダーだから有能なのか、それとも管理職・マネジャーとしても有能なのか、その見極めをするポイントを私自身の中でもう少し明確に理論づけられないものかと、試行錯誤している今日この頃です。

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